別居中の婚姻費用の決め方【弁護士が解説】
法的手続の解説等
2020.07.27
婚姻費用とは?
婚姻費用とは、共同生活を維持するためにかかる全ての費用のことを言い、通常は夫婦が相互に分担します。具体的には、以下のようなものが婚姻費用です。
- 夫婦の衣食住の費用
- 子供の看護に必要な費用
- 交際費
- 教育費
- 出産費
- 治療費
- 冠婚葬祭費
など
夫婦には、同居する義務(同居義務)とお互いに協力して助けあう義務(扶助義務)があります(民法752条)。夫婦関係が円満であれば、婚姻費用は特に問題になりません。しかし、夫婦関係が上手くいかなくなり、別居という事態になった場合には、婚姻費用として収入の多い側が少ない側の生活費を分担することとなります。
婚姻費用の分担はどのように決める?
婚姻費用の額については、原則夫婦の話し合いで決めます。しかし、別居となり相手と直接話せない場合や、連絡を取るのが難しい場合には、弁護士に依頼することが一般的です。弁護士は当事者のかかえる問題点を法的に分析・整理して、効果的に動くことができるからです。弁護士が間に入ってもなお、婚姻費用の額について話し合いで折り合いがつかない場合には、家庭裁判所に婚姻費用分担請求の調停を申し立てることになります。(弁護士に依頼することなく、直接自身で調停を申し立てることも可能です。)
裁判所では具体的な婚姻費用の額を、夫婦それぞれの収入や子供の人数・年齢を考慮して決めます。算定の方法は二種類あります。
一つは算定方式を用いる方法、もう一つは算定表を使って算出する方法です。算定方式を採用すると細かい計算方法での算出が可能ですが、実際はあまり使われません。一般的には、それぞれの収入と子供の人数・年齢によって分類された「婚姻費用算定表」という早見表を用いて、およその額を判断します。
婚姻費用算定表で計算した婚姻費用を修正できる要素とは?
婚姻費用算定表を用いて婚姻費用の目安を計算したとしても、夫婦特有の事情から、婚姻費用の額を修正すべきと考えられる場合があります。実際に問題となるものとしては、住居関係費、教育関係費、医療関係費、所得が高額である場合等です。ここでは、しばしば問題となる住居関係費と教育関係費について取り上げます。
1.住居関係費(住宅ローン)
住居関係費として問題となるのが、住宅ローンの負担がある場合の分担です。
住宅ローンは、以下の二つの側面を有します。
①居住する場所に対する費用
②家という資産形成の費用
別居している場合、住宅ローンが発生している家に住んでいない当事者にとっては、①の居住する場所という価値がありません。また、②の資産形成という面に注目すれば、住宅ローンの支払いが完了すれば、その住宅は資産として保有することができます。これら二つの理由から、婚姻費用算定表で算出する原則としては、住宅ローンは離婚時の財産分与において考慮されるべきであり、別居段階での婚姻費用の算定では考慮しないことと考えられています。
しかし実際の調停においては、住宅ローンは多額であることから、「誰が住んでいるのか?」「どちらが住宅ローンを負担しているのか?」等を考慮したうえで、婚姻費用の額に反映させるかどうかを検討し、調整をします。
2.教育関係費
算定方式によれば、公立中学校・公立高等学校に関する教育費については、婚姻費用として分担の対象とされています。しかし一方で、私立学校の費用や塾の費用については、婚姻費用として分担の対象とされていません。
それでは分担の請求は一切できないのかというと、そんなことはありません。相手が承諾している場合には、私立学校の費用や塾の費用についても分担を請求できると考えられています。具体的な負担割合については、事案によって判断が分かれますので、調停の場での検討が必要でしょう。
夫婦関係の破綻の原因は婚姻費用額と関係する?
婚姻費用分担の調整が図られうる要素は他にもあります。その一つが夫婦関係の破綻原因です。
基本的には、以下の2つは法律上分けて考えるものとされています。
- 夫婦関係が上手くいかなくなった原因や別居の原因がどちらにあるか
- 婚姻費用がいくらになるか
しかし実際の婚姻費用分担調停においては、夫婦関係の破綻や別居の原因を生じさせた側の責任を考慮して、婚姻費用の調整が図られることもあります。
相手から婚姻費用を支払ってもらえないときには?
実際に調停が成立した、あるいは審判がなされたにも関わらず、婚姻費用を支払ってもらえない場合があります。
このような場合には、調停・審判で決められた内容には執行力がありますので、相手方に対して、給与などの差し押さえが可能です。ここまで弁護士に依頼をされているようであれば、引き続き相談してみましょう。
まとめ
婚姻費用の分担は、基本的に夫婦間の話し合いで決まります。しかし夫婦間の話し合いが上手くいかない場合は、弁護士を間に入れたり、調停を申し立てたりする必要があります。
もし婚姻費用に関する不明点や困りごとがあれば、弊所までご相談ください。
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