学校のコロナ対策で、遊具が使えないのはなぜ?【法的観点から解説】
法的手続の解説等 | 保護者対応
2020.08.03
遊具については、不特定多数の児童・生徒が触れる可能性があります。そのため、新型コロナウイルス感染の原因となる遊具の使用を禁止し、児童・生徒の生命身体の安全を確保しているのです。
【解説】
学校設置者は、第一に学校に通う児童・生徒に教育を施す義務を負っています。しかし単に教育を施す義務だけではなく、以下のような事実が生じた場合も、何らかの責任を負うべきだと思いませんか?
- 今にも崩れそうなボロボロの校舎で授業を行ったことにより、児童・生徒が怪我をした
- 生徒間のトラブルが生じているのに放置して、いずれかの児童・生徒が怪我をした
- 災害が発生した場合に適切な措置を採らず、児童・生徒が死傷した
このような場合、学校は怪我をした児童・生徒に対して損害を賠償する責任を負うことになります。
学校には安全配慮義務がある
法的には、学校設置者は教育をする義務に付随して、児童・生徒の生命・身体・財産の安全に配慮することも義務です。この学校設置者が負う義務のことを「安全配慮義務」と言います。
学校保健安全法第26条にも、学校設置者に対し、児童生徒等の安全の確保を図るために適切な措置を講じる努力義務を負うことが規定されています。
学校にはどこまで義務がある?
ところで、「学校がどの程度の義務を負うのか?」という点については、個々の事情や児童・生徒の年齢等により異なるため、「一概にこうだ」とは言えません。したがって、類似の裁判例等を参考に判断します。
<事例>
地震を原因とする津波により、児童が死亡した事例(仙台地方裁判所 平成28年10月26日判決、判例時報2387号81頁)
例えば本事例では、地震発生後の津波により生命身体が害される危険があり、その危険があることが予見できたのにもかかわらず、適切な場所に避難する対応をしていません。結果として、多数の児童が死亡しました。裁判所は、学校設置者に損害賠償責任があることを認めています。
この事件では、
- 地震発生後に教員が、学校に津波が到来することについて予見できたのかどうか
- 教員がとった避難措置が適切だったのかどうか(つまり、別の方法で避難した場合には結果が発生しなかったのではないか)
ということが争点となりました。
具体的な事実関係は省略しますが、裁判所は当時の状況等を詳細に分析した上で、「教員は津波が襲来した際、児童の生命身体が害される具体的な危険が迫っていることを予見できた」と認めました。また避難方法については、児童を校庭から裏山ではなく別の場所を目指して移動させたことに対し、危険を回避すべき適切な行動をとらなかったものと判断しています。
学校はウイルスに感染する危険を認識している
今回の新型コロナウイルスの話では、遊具を使用させることにより児童・生徒の生命身体が害される危険あります。上記の例に照らし合わせてみると、現在の学校設置者は、以下を認識していると言えます。
①遊具に付着したウイルスが児童・生徒の手などに付着する
↓
②児童・生徒が新型コロナウイルスに感染する
(法律上の用語を用いれば、「感染についての予見可能性がある」と言えます。)
仮に遊具の使用を禁止せずに児童・生徒がウイルスに感染した場合は、学校設置者の責任を追及される可能性もゼロではありません。
おまけ
現在の状況からすれば、コロナウイルスの蔓延を防止するための措置として遊具を使用させないことが、不合理と判断されることはないと思われます。また、遊具を使用できないことにより、児童・生徒が被る不利益がそれほど大きいものとは判断しづらいです。よって、上記の理由で学校設置者に対して、遊具の使用を請求することは難しいと思われます。
まとめ
以上のように、児童・生徒ら及びその保護者が遊具等の使用を望んだとしても、学校設置者としては新型コロナウイルスが拡散する等の結果が起こる可能性を無視できません。遊具の使用を禁じる措置は、児童・生徒の生命身体の安全を確保する義務があることから講じているのです。
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