これっていじめですか?学校におけるいじめについて
法的手続の解説等 | いじめ対応
2024.08.01
Q 以下のような事実がある場合、「いじめ」に該当するのでしょうか?
公立中学校の生徒であるXは、中学校入学以来、Y1及びY2と仲良くなり、中学校1年生時を通じて学校内に留まらず、学校外でもお互いの家を行き来する等の関係を構築していた。その後、2年生のクラス替えにおいて、Xは1組、Y1とY2は2組となった。
Xは、2年生に進級した後も、Y1及びY2と行動をともにしようとし、休み時間は隣のクラスへ行く等してY1及びY2に話しかけていた。しかしながら、Y1及びY2は、クラス替えによって新たに仲良くなったY3と行動をともにするようになり、Xの誘いを断るようになった。
Xは、それまで仲良くしていたY1及びY2が、Xに対して冷たい態度をとるようになったと考え、担任の教諭に「Y1及びY2が僕を無視するようになった」と相談した。
「いじめ」とは?
いじめ防止対策推進法第2条1項では、「いじめ」とは、「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう」と定義しています。
本件では、Y1及びY2が、Xに対し、具体的にどのような行為をしたのかは明らかではありませんが、「心理的又は物理的な影響を与える行為」をしたことにより、Xが、「心身の苦痛を感じている」場合は、法第2条1項の「いじめ」に該当することになります。
少し具体的にいえば、例えば、Y1及びY2が、Y3と遊ぶために、Xに対して嘘を吐いてXの誘いを断り、後日、Xが嘘であることに気がついてショックを受けたという場合も、形式的には「いじめ」に該当することになります。
「いじめ」が発生した場合に、学校はどのような対応をすべきか?
いじめ防止対策推進法第23条2項は、学校は、「いじめを受けていると思われるときは、速やかに、当該児童等に係るいじめの事実の有無の確認を行うための措置を講ずるとともに、その結果を当該学校の設置者に報告する」と規定しています。
また、実際にいじめがあったとことが確認されたときは、「いじめをやめさせ、及びその再発を防止するため、当該学校の複数の教職員によって、心理、福祉等に関する専門的な知識を有する者の協力を得つつ、いじめを受けた児童等又はその保護者に対する支援及びいじめを行った児童等に対する指導又はその保護者に対する助言を継続的に行うものとする」とされています。
ただし、当然ながら形式的に「いじめ」に該当するとしても、その態様には、暴行、恐喝等、刑事犯罪に該当すると思われるものから、人間関係上のトラブルに留まるようなものまで様々あります。
形式的に「いじめ」に該当するからといって、全ての事象に同じように対応することは、学校の人的な資源の面や、「いじめ」と評価して対応することの影響等に鑑みても、あまり適切なものとは思われません。
この点で参考になる裁判例があるので紹介しておきましょう。
東京地方裁判所令和3年12月27日判決
いじめの被害者が、学校(正確には学校設置者)を訴えた事例ですが、教諭らの対応について、「もっとも、いじめ等の内容や加害者及び被害者の性格、状況、心情等は様々であるから、個々の場面において具体的に如何なる措置を講ずべきかは一義的に定まる者ではなく、基本的には教育の専門家である各教員の教育的見地を踏まえた合理的な裁量に委ねられるというべきであり、その裁量の範囲を逸脱あるいは濫用し、明らかに不十分・不合理な対応であると認められる場合に限り、国家賠償法1条1項の適用上違法となるものと解するのが相当である」として、「いじめ」があったとしても、教諭の裁量判断があることから結論として学校の責任を否定しています。
また、「いじめ」と民法の不法行為との関係について判断した裁判例があります。
東京地方裁判所令和5年2月10日判決
「同法は被害者となる児童等の権利保護等の観点から広く「いじめ」を定義し、これを早期に発見して事前に防止すること等を目的とするものと回されるし(同法1条参照)、…上記の定義に該当する「いじめ」は、大半の生徒が経験するものであることがうかがわれるから、同法がこうした「いじめ」全てについて不法行為法上の賠償責任を肯定させることまで予定しているものとは解されない」として、「いじめ」に該当することイコール民法の不法行為に該当する訳ではないことを明らかにしています。同判決は、上記に続けて「そもそも、中学校は、人格的に発展途上にある生徒が他の生徒との集団生活の中でその人格を形成発展させる場でもあるところ、特定の生徒の行為に他の生徒が心身の苦痛を感じることがあったからといってその全てについて不法行為法上の賠償責任の成立を認めることとなれば、生徒は他の生徒との積極的な関わりを避けることになるなど過剰な萎縮効果を生み、自由で健全な発育をかえって阻害する結果を招来しかねない」として、不法行為法上違法となるのは、「当該行為が有形力の行使を伴うものか、行為を受けた生徒が被る不利益はどの程度かなど行為の具体的な態様や、当該行為の目的、集団性、反復継続性、計画性等の行為の性質等を総合的に勘案した上で、社会通念上相当とされる限度を超えるものに限られると解するのが相当である」としています。
確かに学校では、多数の生徒が集団的に生活することが予定されていますので、他の生徒の行為等により、嫌な思いをすることはあり得ます。しかし、これを全て「違法」であるとしてしまうと、生徒は、「訴えられるかもしれない」として、思い思いの行動をとらなくなり、かえって生徒らによってマイナスの効果を与えることになる。そのため、「いじめ」に該当するとしても、民法の不法行為に該当するのは、ある程度限定すべきであるとされているのです。
本件では、仮に、Y1及びY2が、Xからの誘いを断る意図で、嘘を吐いたとして、法第2条1項の「いじめ」には該当するものと思われますが、これが繰り返されるとか、Y1及びY2が、Xを自らとの関係性のみではなく、学校内の人間関係から積極的に排除するなどの目的から当該行為を日常的に反復継続して行ったというような場合でなければ、民法上の不法行為とには該当しないものと思われます。
結論
結論としては、本件のような事実がある場合、Y1及びY2のXに対する「いじめ」が認められる可能性がありますが、とはいえ、これが民法上違法であると判断される可能性は低いといえます。
ただし、学校としては、XとY1及びY2との人間関係がこじれ、何らかのトラブルに発展しないかとう観点から、XとY1及びY2の様子・行動には注意しておくべきと思われます。